事業承継で後継者が「後継を決意する」経営状況の見える化

   

平成30年度の事業承継税制の改正で、自社株式の承継時の相続税・贈与税の負担がゼロという税制改正が注目を浴びていますが、事業承継時の一番の悩みは、「後継者が本当に承継をしてくれるのか?」という不安だと思うのです。

また、税理士事務所としても、社長交代で関与終了といった最悪のケースも多々ありますので、スムーズに事業承継を行うためには、何よりもまず、経営者と後継者が同じ目線で自社の現状を把握することからはじめる必要があります。

税理士事務所としても新たなビジネスチャンスであり、後継者との良好な関係づくりとなるでしょう。

現状分析の必要性

経営者は自社の殆どのことを把握していますが、後継者がその段階まで至っていることは少ないと思います。
中には後継者に継いでもらいたい一心で借入金など債務のマイナス面を開示せず、継いだ後から債務が発覚してトラブルになることもあります。

事業承継をする上で継ぐ方も全容を把握しなければ判断がつきませんので、事業承継に向けて会社の経営状況の見える化を図ることにより、経営者と後継者が一緒の目線で、現状分析を行うことで、会社の強みや課題に気づき、お互いの理解を深めるために「事業承継計画書」の作成は事業承継を成功に導く大事なステップとなります。

現状の経営資源

「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源について、ちゃんと把握し、分析する必要があります。

「ヒト」

社員の人数(後継者より若手人数)、平均年齢、社員教育制度などがあります。また特に役員の年齢と職責、役割や責任については明確に事業承継計画内で立てる必要があります。

「モノ」

製品、商品、機械、設備、土地等などハード面だけでなく、技術などの引継ぎ、品質管理の状態、差別化できる技術など売上計画と合わせて設備投資計画なども事業承継計画に入れ、後から資金がなく、債務が増えることがないように準備資金の貯えなども計画が必要となります。

「カネ」

借入金返済など資金繰りの状況やキャッシュフロー(内部留保金)の確認と今後の推移、保険積立など中長期的な目標を設定し計画を立てる必要があります。

「情報」

経営者の人脈、社外の取引先への協力や業界情報の収集方法や知的財産(ノウハウやマニュアル)なども、後継者への引継ぎのための計画が必要となります。

 内部環境

特にお金に関わるリスクについて、

①金融機関からの借入・担保状況や返済能力

②経営者からの借入や返済可能なのか債権放棄など

③役員退職金や社員の今後の退職金はいくらなのかなど

④保険の加入状況と必要保障額の備えがあるのかなど

リスクの把握が必要であります。他にも幹部候補生の育成・役割なども把握する必要があるでしょう。

外部環境

顧客状況、業界の動向、同業者の動き、仕入先など取引先の変化や動向、法律の改正等いった外部環境で、チャンスがあるのか、脅威となるのか?分析が必要です。

特に顧客については、統計データを取るなどし、マーケティングをすることで新たなビジネスが生まれるチャンスもあるでしょう。

このような内部環境と外部環境の分析には「SWOT分析」がとても有効なので、現経営者と後継者を交えて分析を行うことで、新たなチャンスや課題が共有できます。

株主・役員の事業承継

後継者への事業承継を成功させる上で、役員の承継や外部株主などの状況は必ずチェックしましょう。

後継者育成

円滑に事業承継をするためには、後継者の姿勢をチェックし、育成計画を立てなければなりません。

例えば、

・現経営者が大事にしている価値観、経営理念、思想をしっかりと踏襲し、その上で新たな必要な方針や戦略を出すようにしているか(現経営者の価値観を否定する後継者は成功しにくい)

・後継者は、業界のこれまでの慣習、制度の動きと今後の動向を客観的に分析し、自社が生き残る為のこれからの『顧客・商品・価格』の政策を自分なりに持っているか?

・後継者は、店舗や工場、顧客、取引先、仕入先といった現場に積極的に行って、生の情報集めをしているか(机上論と精神論で会社方針を立てる事はないか)

・後継者は現社長と比較される事を覚悟し、世襲や立場で力を見せるのではなく、実績と仕事で実力を見せるよう努力しているか(古参社員などから見て、『息子は良くやっている』と言う評価があるか)

・後継者は、社員に何かを頼んだり、顧客や取引先に謝ったりする時、誠心誠意、頭を下げて陳謝したり懇願できるか(高慢な姿勢では人はついて来ない)

・後継者は、古参役員や幹部をむやみやたらに煙たがったり、「頭が固い」などと否定したりせずに、味方にするように自分からコミュニケーションを取り、重用したり、面子を立てるような対応をしているか

など、このような後継者の姿勢は必ずチェックし、育成計画を立てる必要があるでしょう。

円滑に承継させるための現経営者の行動チェック

後継者の育成だけではなく、現経営者の引継ぎ計画も必要となります。

例えば

・後継者は誰か、明確に公言しているか

・自分の引退年齢を決め、公言しているか

・現経営者の右腕・番頭に経営者が退任後もマネジメントをする場合は、「新社長に従順にせよ」と厳命しているか

・現社長は、自分と後継者を比較しないように意識しているか。「劣って見えるのは当たり前」と理解し、自分とは違う良さを引き出し、衆目の事実とするよう心がけているか

・生命保険の話を敬遠せず、掛け金と、いざと言う時の保証額、法人と個人の内訳などを整理し伝えているか

・現社長の友人や知人等の「人脈リスト」を整理し、自分に何かあった場合、「こういう事は○○が信頼できる」などと一覧表を作成し、後継者に話しているか

・現社長は自分の失敗談や創業時の苦労、自分が継承した時の苦労や失敗、会社の歴史について後継者と語り合っているか

など現経営者をチェックし、後継者のために「職務権限移譲整理計画」で明確にしましょう。

 

事業承継は5年以上の長期計画となる場合も多くあります。

税理士事務所としても、後継者との良好な関係づくりにも重要な役割を果たすため、後継者が決まったなら、早めに事業承継に向けた事業承継計画の作成を提案し、事業承継における課題への対策、権限移譲など支援することで、経営者のみならず後継者の良き相談役となれるでしょう。

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